それは1980年代にさかのぼります。日本の昭和基地の隊員が南極でオゾン層が希薄になっていることを報告したのです。地球の大気圏の最外層に位置するオゾン層は太陽からの紫外線を遮断しますが、オゾン層に穴が空いて、オゾンホールができることによって皮膚がんの増加が懸念されたのです。
以来、世界中で紫外線防止のためのSunSmart Campaignが行われ、Slip/Slop/Slap、すなわち長袖シャツ・日焼け止め・帽子が推奨されたのです。
しかし日本人の皮膚がん発生率はオーストラリア人の100分の1で、しかも命に関わる悪性黒色腫は紫外線と無関係です。
紫外線が皮膚がんをさほど増加させないとしても、女性たちは顔にシミが生じることを恐れています。サンバーンという日やけどを生じた部位には色素沈着を生じるからです。
ところが女性に特有の肝斑(かんぱん)というシミは、サンバーンを起こす額や鼻にはほとんど生じず、頬骨の直上にできます。女性の顔のシミは化粧落としによる摩擦が引き起こした慢性擦過性皮膚炎だったのです。
紫外線対策としてもちいられる汗落ちしないファンデーションの基剤はシリコン樹脂という強力な接着剤です。通常の石けんでは落ちませんので、洗顔料にはラウレス硫酸ナトリウムという強力な合成洗剤を用います。この洗剤の別名はアルキルエーテル硫酸エステルナトリウムといって、食器用洗いに使われている肌に有害な合成洗剤なのです。当然、皮膚の保護膜を破壊して乾燥性皮膚炎を生じます。高価な化粧水、乳液、クリームを用いてもシミが生じるのです。それを隠すためにさらにファンデーションを塗るという悪循環を起こしています。
じつはそんな危険を冒さなくても、顔のシミを予防することができます。それは紫外線を浴びることなのです。
紫外線にはA波とB波があります。B波は過度に浴びれば日やけどを起こす悪玉紫外線ですが、A波はサンタン(肌の色を濃くすること)によって日やけどを防止してくれる善玉紫外線なので、サンタンは一晩寝ればさめてしまうので一次黒化と呼ばれています。
紫外線は地上に届く太陽光のうちわずか6%、しかも紫外線の96%はA波で、B波はわずか4%。熱中症になるほど真夏の炎天下にいなければ日やけどを起こすことはないのです。日頃から適度に紫外線を浴びて日焼けしていれば、それ以上の紫外線対策は必要ないのです。
ではいよいよ本題です。紫外線を浴びることによってどのようなメリットがあるのでしょうか。
紫外線の直接効果としては、皮膚に侵入する抗原を認識しアレルギー反応を引き起こす、樹状細胞の働きを抑制します。わたしもタンニングマシーンの使用によって、長年苦しんできた背中の慢性皮膚炎を根治することができました。
また紫外線は皮膚表面のコレステロールをビタミンDに変えることができます。
ビタミンDがよく知られているのは腸管でカルシウムを吸収し、骨を丈夫にする作用です。しかしビタミンDはその構造からも性質からも単なるビタミンではなく、性ホルモンや副腎皮質ホルモンと同様のステロイドホルモンことが判明しました。性ホルモンと同様に全身の臓器の細胞に働きかけて遺伝子を発現させ、多種多様な機能を活性化し、また臓器の細胞を修復・成長しているのです。そのビタミンDが不足することによって腎不全、肝不全、呼吸不全、消化吸収不全、心不全、認知症、うつ、感染症、糖尿病、高血圧、自己免疫疾患、骨粗しょう症、そしてがんが引き起こされることが医学雑誌Natureに掲載されました。
さらにビタミンDが不足するとがん死亡率が1.7倍に、十分にあれば乳がん、大腸がん、前立腺がん、肺がん、血液がん、胃がんなどの死亡率が半減することが明らかになりました。
日光浴やタンニングマシンによって日焼けすることや、ビタミンDを積極的に摂取することは、あらゆる生活習慣病とくにがん死亡率を減少させることが期待できるのです。
[参考]
「病気が逃げていく!紫外線のすごい力」2019(南雲吉則 著/主婦の友社 発行)